草原の椅子

草原の椅子_e0001663_21131959.jpgお久し振りの宮本輝。10年くらい前にメル友さん(←死語?)の薦めで読み始め、半年で文庫全巻読み尽くしてしまうくらいハマったことがあった。不遜にも「宮本輝ランキング」なんてのも作ってたな・・・もう8年も前。流転の海の新作が出たときだけ読んだくらいのお久し振り。

「草原の椅子」は新作と言うわけではなく、阪神大震災のあと、10何年も前の作品。近々に映画化されると言うので、書店の平積みになってるのを見つけた。聞くと、あの「八日目の蝉」の監督が撮っているとか。ちょっと触手動く。



映画にしてどうなるかは不明だが、この上下巻、そこそこ長い小説・・・うーむ、宮本さんってこんなだったけ?特にストーリーは無く、事件も起きない。唐突に親友の契りを交わしたおっさん二人がぼやきあい褒め合う、それだけ。不倫の修羅場で灯油を浴びせられたり、高速道路で少女が車に駆けこんできたり、覗き見ているだけで胸がときめく謎のバツイチ熟女と出会ったり、破産しそうになった友人と会ったり、交通事故で下半身不随になった同僚の立ち直りを助けたり、虐待を受けた児童を預かることにしたり・・・みんなエピソード程度の扱いで、本筋には関係して来ない、本筋が無いから。

著者ご本人の思い入れ、タクマカラン砂漠へ行こう!との提案に、親友も熟女も都合よく賛同、最後の何十ページかはその紀行文となる。これは、巨匠自らの旅を語ってるので、描写は美しく読んでて快適。いや、全編を通して文章は端正で、私の世代にはとてもよく沁み通るよ。

ただですな、ぼやきがとても通俗的に感じるのだな。「日本はいつからこんな国になったんや?」「みんな政治家と官僚が悪いんや」・・・わしらの居酒屋談義と変わらん。50そこそこの男が、いつからこんな国に・・・と感じるのは、とても素晴らしい国であったことがこの50年間にあったということ?あんたら、政治家や官僚のおかげで豊かに安全に人生を送れたんでないの?とツッコミたくなる。

つまりは巨匠になると、そんなツッコミ気にする必要もなく、売れる売れないなど考えることもなく、思いのまま書いていいと言うこと、だね。こうやって買う人居るんだから。これをどんな風に映画化するのかは興味がある。「八日目の蝉」も映画の方が良かったもんな。
by cegero116 | 2013-02-01 21:12 | 本の虫 | Comments(0)