カノン

カノン_e0001663_9173368.jpg中原清一郎さんなる作家の「カノン」、ハードカバーで初版を購入。珍しや。なんかの書評ですごく面白そうな予感がしたのだ。帯だって「各紙絶賛の圧倒的傑作」って書いてあるし…。

脳の中で記憶、情緒を司る器官「海馬」を移植手術で交換、58歳の末期ガン男性と、32歳の記憶障害を患う女性が入れ替わる話。記憶、意識はそのままに、肉体が入れ換わる…即ち体を着替えたらどうなるか…テーマは柳沢さんの「転校生」に近いが、もう少し科学の香りをまとった近未来小説であった。



文章はやや硬いけど読みやすいし、ストーリーの飛躍や破綻もない。面白かったと言えばつまらなくはなかった…のだが、折角こんな魅力的なテーマで書いたのにもったいないなぁ、が感想。

まず、何で好んで余命1年の中年オヤジの体に着替えたの?の理由の解説がある。近未来は認知症がごく一般的になっており、若くして急激に記憶を失う奇病に侵された若い母親。子供が母親の記憶をしっかり残せるように、身を捨てて正常な脳を持つ重病の男にこれを託す。

この美味しいテーマを、渡辺淳一さんか(黙祷!)なら、えもいわれぬいやらしい官能ロマンに仕立てだろうし、伊坂さんなら、ミスリード仕込みまくって息もつかせぬサスペンスになったろうし、春樹さんなら人の本性に斬り込む何度も読み返すさくひんになったにちがいない、と。結局、子育ては大変なのよ、人の命ははかないものよ、だけしか伝わらんお話で終わってしまった。言いたいことがそれだけなら、別に脳を交換せんでもええんちゃう?と、無礼者な意見。

同い年の著者だとか…器用だけと凡庸な感性は、世代なのかもしれませぬ。
by cegero116 | 2014-05-09 09:17 | 本の虫 | Comments(0)