ゴールドラッシュ

ゴールドラッシュ_e0001663_2071948.jpgこれもずいぶん前、1998年発行の小説。「命」4部作で初めて著者に出会ったワタクシ、以後それ以外の作品を読んではいなかった。古本屋まとめ買いに混ざってた。

サイバラ画伯の「できるかな」最新作に登場させられ、「劇団くずれのコワレ作家」と評されていた。画伯の人脈、ますますダークにしてディープに拡がってる模様。「命」より更に2年前に著された本作。とってもダークでディープでした。



出だしの腐臭漂う横浜黄金町の描写で、まず一回投げ出したくなる。著者の育った街とのことだが、ここまで曝け出して始めているのは、お上品な読者を玄関で追い払うためであろう。また本人の出自である在日社会の裏面・・・ヤクザ、暴力、強姦、麻薬が話の骨格であることも微に入り示される。舞台は金の亡者たる主人公の父親が経営するパチンコ屋。・・・玄関から上がったところの廊下で帰される読者ぞろぞろ。

主人公は、持って行き所の無い怒りと恨みを抱いた14歳の少年。解説を読むと、当時世間を驚愕させた「酒鬼薔薇事件」に触発されて書いたとある。が、本作で殺すのは、無差別に選ばれた少年ではなく、怒りの源たる主人公の父親。殺人に至る心の動きは克明に語られるが、理が勝った観念的なものにはなっておらず、幼児性の明らかな衝動。わかっていても、分別を得てしまった大人ではこうは書けぬ。おそらくは、著者の飾らざる内面に同じものがあるのだと思う。

何の論評だったか忘れたが、福田和也と坪内祐三の対談で、ボロクソに評されていた。「自分の腸をぶちまけてればいいと勘違いしている・・・恥ずかしい」てな調子だった。恥ずかしいとは思わないが、話は時々主語を失い、妄想と現実の書き分けが曖昧になり、何度も投げ出したくなる。・・・都合5回くらいの投棄機会を失い、最後まで読んでしまった。ラストだって、解説読まないと、なんのこっちゃこれは?と、混乱。

少なくとも、エンターティメントではない。痛い痛いお話でした。
by cegero116 | 2007-08-13 21:39 | 本の虫 | Comments(0)