英国王 給仕人に乾杯!

土曜日の夕方。先週、曜日を間違って観られなかったディカプリオの「ワールド・オブ・ライズ」、今週こそはとしっかり時間を調べて有楽町へ・・・金曜で終わっておった。よっぽど縁が無かったんだな。代わりに封切り上映されてたのが、同じディカプリオの「レボリューショナリー・ロード」。好みのケイト・ウィンスレットも出ていてそのまま入って不思議は無かったのだが、なんとなくラブストーリー観る気分ではなかった。日々のささくれた生活のせいだ。

で、うんうん考えて、日比谷へ足を延ばしてチェコ映画「英国王 給仕人に乾杯!」に決める。日比谷シャンテだけの限定ロードショー。配給会社、自信ないのね。タイトルからしてとても地味。前宣伝も聞かなかったなぁ。
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が、結構な掘り出し物に当たったぞ。最近。とみにヨーロッパ映画に魅かれているのだが、チェコとなると初めてじゃないかな?・・・とても不思議なテイスト。「ブリキの太鼓」みたいでもあったが、難しい小理屈無いだけこちらの方が私向き。



共産国の思想改造刑務所で15年を過ごし、出所した主人公ヤンの思い出話。過去を悔いているようでもあり、あるがままに生きたと満足してるようでもあり。人生「金と女」という、普遍にして実もフタも無い信条の持ち主。品性下劣で無節操、職務には懸命だけど主張したり激したりの全く無い人生の結末は、釈放されたあとも人里離れた森の中でひとり道路人夫する境遇。それでも「良いことの後には悪いことが来る。どんでん返しの人生だったなぁ。」と淡々。老いても相変わらず女に傾く姿は、ある意味天晴れである。

スピーディな物語展開は見所たくさん。チンケな詐欺で暮らしていた少年時代に生涯の恩人と出会い小さな酒場での給仕デビュー、ユダヤ富豪宅でのデカダンそのものの乱痴気騒ぎ、一流ホテルで出会う真に尊敬できる給仕長・・・(タイトルはこの給仕長の台詞で、とても深遠な意味が込められてるそうだ。)写真は、プラハにエチオピア皇帝を招いてのレセプションのシーン。ひょんなことから下っ端のヤンが顕彰されることになるエピソードが笑える。(この皇帝、アメリカの黒人女性ロックシンガーがキャスティングされてるんだって!)

後半のヤンは、ヒトラーのズデーテン侵攻からチェコ併合の時代の荒波に直面。抵抗運動する仲間たちに背を向けた理由が、ナチ親衛隊の女性に恋したからだと・・・抵抗を続けた尊敬する給仕長が逮捕され、ユダヤ人の恩人は貨車で収容所へ。ヒムラーらしき容貌の将校が、ユダヤ人から接収したホテルを、純血ゲルマンを作る為の狂気の民族浄化施設とするも、ヤンは引き続き給仕として仕える。戦局終盤に、手足の無い戦病者が全裸で泳ぐシーンは、日本だったらコードにかかると思うな。輝くように美しい裸のゲルマン女性との対比が露悪的だ。

ナチスの妻は、巨万の富に変わる切手をユダヤから略奪してヤンの元へ帰る。一瞬気色ばむヤン、が、その妻が爆撃で非業の死を遂げた戦後、切手を売り払って望みどおり百万長者になって悪びれないのがこの国のリアリズムだな。資本家全てを逮捕・投獄に来た戦後の共産警察に、自分の預金を訴え自ら獄に落ちるヤンは、そのことで裏切ったり死んでいったりした仲間達への贖罪としたのだろう・・・解釈違うかな?

全編、剥き出しのエロが横溢しているが、コミカルな演出のおかげでちっともいやらしくない。即ち、エロで媚びてない。入れ代わり立ち代りのヒロインヌードが、どれもこれもがっしりとした肩幅と二の腕の持ち主だから、というのもあるね。ヤンが、運命の理不尽にも歴史の残酷さにも一切の抗議をしていないのが、逆に翻弄された小国のどうしようもない本音を象徴していると思えた。

ラストに、収容所で虐殺されたはずの恩人とビールを酌み交わすシーン(幻覚?)を見て、帰りにピルスナー買っちまった。料理も酒も、とても美味そうな映画であった。
by cegero116 | 2009-01-27 22:52 | Cinema | Comments(0)