オリンピックの身代金

オリンピックの身代金_e0001663_2059348.jpgお盆に妹から借りてきたハードカバーの単行本。奥田英朗、変態医師のユーモア作家と思いきや、これは入魂ミステリー・・・ではなく、ドキュメントを装ったフィクション。1ヵ月位の時差で犯人と捜査陣の行動が並べられる。これが徐々に縮まって、クライマックスは時間と空間を共有する。上手いぞ。

出だしより昭和39年の世相がリアルにちりばめられる。辛うじてその時代を知っている私の世代・・・「いかしてる」「なおんとしーめ」「ん、若大将の意地悪!」などの台詞は痛すぎるが、多分リアル。



んなとこに主眼があるわけではなく、未だ激しい貧富の差の合った時代に、恵まれた境遇をコンプレックスに感じる主人公島崎国男と、国を挙げてオリンピック成功に邁進する日本国民のギャップが理不尽な進行とラストへ向かってゆく。主人公に共感できないのは、その後の歴史を知ってしまってるから。

途中から、何となく結末の予想がついてしまう。ヒーローたる島崎を覚醒剤中毒にしたあたりから、予定調和じゃないラストも期待していたが、当初予想通りのラストだった。タイムトラベルじゃあるまいし、史実を曲げてならないってこともないのにな、なんて考えて読み進んでたが・・・残念。タランティーノみたいにめちゃくちゃやってくれたら面白かったのかもしれないぞ。
by cegero116 | 2010-09-13 20:59 | 本の虫 | Comments(0)