9・11倶楽部

馳星周氏のハードボイルド…?クライム…?社会派バイオレンス…?何と言ったらいいのか、スピード感溢れるアウトロー小説であった。

9・11倶楽部_e0001663_1245682.jpg馳さんのアウトローにしては、主人公はこっち側の人。将来を嘱望された優秀な消防士が地下鉄サリン事件で妻子を奪われ、行き場のない怒りと悲しみで救急救命士に転職している。職務の中、救急車を襲撃してきた子供たちのギャングに出会い、その驚くべき境遇を知る。…ちょっとネタバレだが軽く書くと、石原都知事の歌舞伎町浄化作戦で中国に強制送還された中国人の子弟たち。戸籍も健康保険もなく、息を潜め身を寄せあって生き抜いてる野犬の群れのような子供たち。母親役の15歳少女が再生不良性貧血に犯されており、明日の見えない絶望の中でたったひとつの「遊び」を夢みながらあがいている。

ま、ネタバレこの辺まで。主人公は赤の他人の子供たちに惹かれ、お馴染みのアウトロー社会にずるずる入り込んで行くわけだが、暴力・バイオレンス描写はほどほど。なぜそんな行動を?に辻褄あわせた解説がないのがこの方らしい。ただの自滅・自爆に見える「遊び」に体を張る終盤の展開は緊迫感たっぷり。

少年たちが怨嗟の目を向ける石原の居城、東京都庁舎。物語のとても重要なシンボルなのだが、わずか築20年にして全館雨漏り、修理に一千億円かかると、巻末の解説で明かされる。私の作った木造アパートでも20年くらいじゃなんともないぞ。

それだけ斬新なデザインだから…と弁護されるお方。数千億もかけてただの地方役場を醜い権威の象徴にした行為のどこがデザインなのだ?独創性も美しさもどこにも見当たらないし、行き交う人々はみな目を伏せる…平壌の金日成記念館(…あるかな?)にたむろするコチェビの眼。建物が家運の盛衰を左右したのかなぁ…よっぽどひどい家相なのだ、きっと。

書評でもなんでもなくなってしまった。
by cegero116 | 2011-06-30 12:04 | 本の虫 | Comments(0)