野中広務 差別と権力

野中広務 差別と権力_e0001663_1392081.jpg新刊で出たときから気になっていた一冊。文庫化したので早速購入・読了。いつもの恋愛小説よりは時間をかけてじっくり読む。現役だった頃から、その経歴・思想とも知らないのに何故かファンだった政治家。発行された時はまだ引退直後で、その豪腕・したたかな印象と裏腹な、あっさりした引退劇に謎を感じていた頃。2年ほどたって今はと言うと、さすが政界の潮は速く、完全に過去を描いた歴史書になっている。ケチケチせずにハードカバーで買って読めばよかったかな。



日曜の早朝、「時事放談」で久々の野中氏が、元蔵相で民主党の藤井裕久氏と出演していた。ご隠居揃って国政を鋭く斬る番組(あ、藤井氏は現役だっけ?)。仲良く並んで斬っていたが、この本では細川政権の藤井蔵相を激しく攻め立ててるんだけどな、と。馬場とブッチャーが試合終わって一杯やってるようなもんか。が、舌鋒は引退した野中氏に圧倒的軍配。「安部総裁実現の為の議員連盟に94人」に「まぁ、いつでもこんなとこに顔出してる方ばっかりで、テレビに映れば何でもいいという程度のお人たち。どうということはありません。」言い切り気持ち良し。

読み終わって何でファンだったのか、何となく見えてきた。町議、町長、県議、代議士、幹事長と上って行く過程での密室・根回し・利権・恫喝。暗いイメージの方が勝って見えるタイプ。が、虐げられた環境から凄まじいまでの努力で這い上がり、武闘上等、勝つ為には手段を選ばぬ苛烈さと180度うって変わる弱者への暖かい眼差し、不戦の決意。・・・戦闘に際しては空気を読み悪魔とでも手を組むが、信念を訴える為には、百人これを敵に廻してもこれを貫く。自分自身がが一番できないことをやってくれるのがファンの所以だったようだ。

緻密な取材を通して見えるのは、こと「政策」に関しては無定見な政治家であったということ。蜷川、小沢両氏との蜜月から反目への変転。不戦を誓い、差別者・権力に対する激しい怒りを露わにしながら、ガイドライン法案、盗聴法案をまとめる・・・矛盾というしかなく、対中、対朝政策の影響か、国の将来を危うくする実力者と、一部民族系より攻撃を受けていたのも訳無きものではない。とても後世、名将、大政治家と呼ばれることはあるまい。

ということを全てマイナスとして割り引いても、この本に記されている節目節目で吐かれる火の玉のような彼の発言は、私のようなものを魅了する。読む前より贔屓度はいささか後退したような気もするが、「私のような、大戦を経験し、二度と決して戦争をしてはならぬということを身を持って知る人間が居なくなることが怖ろしい。」には、最低限同感。「日本の今」に対して、まだまだ発言してもらいたい一人だとの読後感であった
by cegero116 | 2006-06-05 21:41 | 本の虫 | Comments(0)