朗読者

朗読者_e0001663_220157.jpg久々に海外小説。それもドイツ文学。軽妙な現代日本小説ばかり読んでるせいか、ずっしーんと重い読後感であった。

ヨーロッパ文学の伝統なのか、一人称での語り口は極めて自省的。ひたすら自分を見つめ、責める。主人公は、少年期から現在に至る長い長い時間に、今の感覚では理解できぬ行動を取り続ける。世界中に感動の嵐を巻き起こした・・・そうだが、日本は例外なのかもしれない。



短い小説だが、全体は3部構成と言える。第一部は、エロス全開、「肉体の悪魔」か、「赤と黒」か?いや、「卒業」的なショタコン小説化とも思って読み進める。主人公が寝物語代わりに小説を朗読するシーンも、流れの中では愛欲シーンの一部となる。ところどころに女性の不可解な言動があり、中盤以降の物語の展開の重要な伏線になっている。

女性の突然の失踪とともに、舞台は突然反転し、ナチスの戦争犯罪を裁く法廷へ。愛した女性が、ユダヤ人強制収容所の女看守だったことが明かされ、前段に伏線として張られた謎により、徐々に追い詰められてゆく。冷静に観察する主人公。謎に気付き、いつでも助けに飛び込める状況になっても、主人公は苦悩するのみで行動を起こさない。いかなる判決が下されるか、少しハラハラさせる展開。

無期懲役となった女性に、愛した時代の思い出・小説の朗読をテープに吹き込んで送り始める。18年、会うことなく、話すことも無いまま、釈放の日を迎えた女性を訪ねる主人公。そして・・・。

全然わからんわい!と、主人公の優柔不断な態度を責める気にすらなるのは、予定調和のハッピーエンド本に慣れてしまったから。ドイツらしい、というよりロシア文学に近いような気までした。表現は、エロスのシーンも、犯罪を語る場面も、技巧的ではなくとてもストレート。

文学として、多分私は理解できなかった一読目だが、(是非二回読めと、あとがきに書いてあった。)ナチスドイツの経験がヨーロッパ人の心に、決して消しえないものを刷り込んでることだけはよく解った。
by cegero116 | 2007-08-21 21:58 | 本の虫 | Comments(0)